オゾン層破壊については1960年代には水爆実験で生成するNOx(窒素酸化物)による破壊、1970年代には超高速旅客機が生成するNO₂ (二酸化窒素)による破壊やスペースシャトルの放出塩素化合物による破壊が問題視されましたが確たる証拠が得られぬまま1980年代中頃にCFCs(フロン)による成層圏オゾンの破壊が明確になりました。これは1974年に発表されたMolina & Rowlandの「CFCsによるオゾン層破壊理論¹」に基づいています。
CFCs(フロン)は大気中に放出されると分解されることなく大気圏に運ばれます。対流圏で安定なCFCs(フロン)は波長220nmより短い太陽紫外線に混ざると光分解を起こしてCI(塩素)原子を大量に遊離します。1個のCI(塩素)原子は連鎖反応で数万個のオゾン分子を破壊します。さらに危険な問題はCFCs(フロン)は大気圏に100年以上は滞留すると考えられていることです(図-1)²。
成層圏オゾンの減少がUV-Bを増加させ最悪の場合UV-Cまで地上に降り注ぎ始める要因になることを最初にお伝えしました。オゾンの減少によって地上の太陽紫外線スペクトルがどのように変化するかを推算した結果(図-2)、オゾンが10%減少(288DU)するとUV-Bは波長290nmで見ると約3倍に増加しDNA損傷効果は現在の約10〜15倍に増加すると予測されます。同様に成層圏オゾンが現状より30%減少(256DU)したと仮定するとUV-Bは波長290nmで約30倍以上増加するという深刻な事態が起こりかねないことが十分に推測されるのです。UV-Bは日焼け(サンバーン・サンタン)、皮膚がん、白内障、翼状片、DNA損傷反応を引き起こします。南極大陸では1980年代後半から毎年10月頃にオゾン全量が極端に少ない状態(220DU未満)、つまりオゾンホールが観測されています(図-3)。オゾン層破壊は人類の生存を懸けた重大な地球環境問題であると言っても決して過言ではありません³ ⁴。
図-2(オゾン層破壊で変化する地上の太陽紫外線強度)
図-3(1979年と2013年それぞれの10月の平均オゾン全量の南半球分布)
Sources:
1. Professor Paul Crutzen, Max-Planck-Institute for Chemistry, Mainz, Germany (Dutch citizen) / Professor Mario Molina, Department of Earth, Atmospheric and Planetary Sciences and Department of Chemistry, MIT, Cambridge, MA, USA and / Professor F. Sherwood Rowland, Department of Chemistry, University of California, Irvine, CA, - The ozone layer - The Achilles heel of the biosphere -
https://www.nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/1995/press.html
2. 気象庁 - オゾン層観測報告:2002 - (2003)
3. 佐々木政子 著 - 絵とデータで読む太陽紫外線 - 独立行政法人 国立環境研究(2006.3)
4. 佐々木政子 編著 - 太陽紫外線と上手につきあう方法 - 丸善出版(2015.6.30)
コメント
コメントを投稿